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『引き出しの中のラブレター』

予告編から気になっていたので見てきました。

今の精神状態で見るといいんだか悪いんだか、刺激になります(笑)

引き出しの中のラブレター
監督:三城真一
出演:常盤貴子、林遣都、中島知子、岩尾望
配給:松竹

FMラジオのパーソナリティ、真生(まい)は、ある日、北海道に住む少年から「笑わない祖父を笑わせるには?」と書かれたハガキをもらう。とっさに答えられなかった真生は、おじいちゃんを笑わせる方法を番組で募集。その方法が全国から寄せられるが、ある時、「もう募集はやめて欲しい」と再び少年から手紙が。この少年がどうしても気になる真生は、ひとり北海道に向う。実は真生には、絶縁した父を亡くしたという過去があった…。
『引き出しの中のラブレター』作品解説・紹介」より (2009.10.10)

学生時代からラジオDJが夢だったりするので、主役がラジオDJの映画はどうしても気になって見てしまいます。邦画だと『Little DJ』だったり、洋画だと『グッドモーニング・ベトナム』だったり。どれも好きな映画です。この映画も、好きな映画になってしまいました。

原作が気になって帰りに丸善で見てみたんですけど、原作とはちょっと違った方向性なんでしょうかね。帯だけ見てるとそんな感じがするんですが、いかがでしょう?ちなみに、原作はこちら

「あなたの声を、待っている人がいます。」

これがこの映画のコピーです。あなたの声を伝える媒介になるのはメディアであり、ラジオの特性と今の時代性がよく出た作品だと思いました。監督がテレビ業界出身のせいか、セリフの端々に率直なメッセージが出ているんですよね。そこがこの映画のストレートなところでもあり、残念なところでもありました。せっかく映画なのに、なんだかテレビドラマっぽさを感じてしまうので。

全編を通じて、3つのセリフが気になりました。

まずは、常盤貴子演じるラジオパーソナリティの久保田真生が、仲代達矢演じる速水恭三に対して言ったセリフです。

「伝わるかどうかわからないけど、言葉にして伝えてみないとわからないじゃないですか」

記憶を元にしているので一言一句正確ではないですが、これは送り手側としてはすごくツボな部分です。以前、Mr.Childrenの桜井さんがインタビューで同じようなことを言っていました。メッセージは伝わらなければならないものじゃない、と。

僕はメッセージを送る側として、どこかの報道のように「伝えなければならない」とか思ってはいません。あくまでも「メッセージ」だと思っているのは送る側であって、それを受け取る側がどう思うかというのはまた別の話なのです。前に書いたかもしれませんが、送り手側のメッセージってのはお店の軒先から立ち上る香りみたいなものです。それを受け取る人もいれば、気にしない人もいるし、あえて無視する人もいる。それが「メッセージ」であることを判断するのは、あくまでも受け手側なんです。

だから、伝わるかどうかわからないけど、伝えたい想いがある限り伝えようとする姿勢が非常に大事なように感じます。メディアの端くれにいる身としては、受け手のことをきちんと考えた想いを扱っていきたいと思うのですが、やはり「一方的」に伝えたいって想いばかりが先行してしまうものが世の中には多すぎます。自分がそういうワガママなものを扱っているのかと思うと、結構ガッカリしたりもしてしまいます。

次に気になったのは、企画会議のシーンで出た一言。久保田真生が企画会議に半ば強引に乗り込んで企画をアピールしたシーンです。『引き出しの中のラブレター』をホリデイスペシャルの企画としてGOサインを出した、伊東四朗演じる龍木雁次郎のセリフです。引き出しにしまってしまったままになっていて心の奥底に隠されている想いを、ラジオを通じて届けたい。そんな企画に対しての一言。

「引き出しの中の想い、いいんじゃない。何でもかんでも出してしまう最近の風潮に逆行するところがよろしい」

これも記憶を元にしているので正確でないのはご容赦を。精神科医の香山リカさんが前に雑誌で、今はブログやメールで何でも語る時代になってしまったからこそ本音をどこにも言えなくなった時代だと評していました。そうねんですよね。自分が考えていることを誰かに「伝える」って行為はものすごくパワーがいることなんです。自分の考えをそのまま話しても、たいていは伝わっていませんから。

僕は昨今の「言葉」の力を過大評価した感じが嫌いです。「言葉で言わないとわからない」とか「言葉にしてみたら、伝わる」とか。言葉にしたら伝わるなんて想ってるのは大間違いで、言葉にしても伝わらないからパワーがいるんです。だからこそ、「言葉にして伝えてみないとわからない」んですよね。そこをすっ飛ばして「言葉の力」ばかりを偏重してしまっても、それは誤解の元となるだけです。

「自分はこう思っている」ってアピールできる場所は山のようにあります。一方で、どうでもいいことは言えても、大事なことがなかなか言い出せないってこともあります。人間関係ってアンバランスになりがちなところがたくさんあるものです。誰しも、言いたくても言い出せなかったことが心の引き出しにひとつはあったりしますよね。

最後は、ラストシーンです。修道院の前で速水恭三が久保田真生に言ったセリフ。これはたった一言なので、正確に覚えています。

「ありがとう」

これはね、送り手としてはたまらない一言ですよ。僕なら嬉しすぎて悶絶モノです。こういう言葉を期待しているわけではありませんし、そのリアクションのためにやっているわけでもありません。でも、自分の伝えたい想いに対して「ありがとう」と言ってくれる人がいることは、上手くは言えないですがとても素晴らしいことだと思います。

全体的な流れはやっぱりテレビドラマっぽさがあったんですが、個人的にはすごく好きです。舞台挨拶で主演の常盤貴子さんがこういったコメントをしていたようです。

「大きいものだと17本、小さいものも合わせると30本以上が今日、公開初日です。その中で、笑っちゃうくらい地味ですが、この映画を選んでくれて本当に感謝しています」
eltha「常盤貴子、フット岩尾らのラブレターもらい「泣きそう」」(2009.10.10)

たしかに地味です。でも、僕はこの映画を選びました。それは正解だったと思います。万人受けする映画ではありませんが、「伝える」こと、ラジオのこと、メディアのこと、「自分以外の人」のことを考える上で、とても素敵な映画です。

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